センターに折り込むバターは、
発酵バターと無塩バターの2種類。
発酵バターは、深いコクと芳醇な香り。
無塩バターは、軽やかさと口溶け。
コクだけでは重い。
軽さだけでは物足りない。
その両立のために、2種類を使っています。
冷えた硬いバターを、綿棒で叩きながら正方形に整形する。
この地道な作業が、後の層の美しさを決めます。
■ 伸ばしては、休ませる。を、何度も。
小麦粉・塩・水・ワインビネガーで仕込んだ生地に
整形したバターを包み込みます。
そこからが、本当の仕事です。
バターが切れないように。
溶け出さないように。
焦らず、伸ばす。
そして、3時間休ませる。
また伸ばして、また休ませる。
この工程を何度も繰り返し、
最終的にできあがる層は──
432層。
焼き上がったときの
“サクッ”としたお口の中に響く音は、
この時間の積み重なった音です。
■ りんごは、バターで絡める。
りんごはただ単に炊くのではなく
バターを絡めることで
果汁にコクが加わり、パイ生地との一体感が生まれます。
オーブンから取り出す瞬間、
パイの隙間からりんごの果汁とバターが
沸々と顔をのぞかせます。
甘い香りと香ばしさが重なり合い、
工房いっぱいに広がります。
■ りんごの品種へのこだわり
紅玉のように、固く酸味のある品種が
アップルパイには向いていると言われています。
新富大生堂でも、さまざまな品種で試しました。
その中で選んだのが、
青森県産「シナノゴールド」
程よい食感
ジューシーさ
甘さと酸味のバランス
このパイ生地との相性が、
いちばん良いと感じたからです。
そのため、シナノゴールドの入荷が終わり次第、
今季の販売は終了となります。
■ 焼きは、感覚とデータの両方で。
焼成には、イタリア製スチームコンベクションオーブンを使用。
温度は180〜190℃の間
風量も強くしたり弱くしたり調節しながら、
焼き色を見極めます。
・余熱でもう少し焼き色が進みそうだから今日はこの焼き色で出す
・もう少し奥の方の焼き色が弱いなあと1分時間を足そう
というふうに、最後は自分たちの目で確かめます。
機械を使うのは効率のためではありません。
再現性を高め、いつもの味わいを安定してお届けするためです。
■ なぜ、ここまでやるのか。
アップルパイは、特別な日のためだけのお菓子ではありません。
けれど不思議と、
“誰かに渡すとき”に選ばれるお菓子です。
お祝い
お礼
気のおけない仲間との時間
あるいは、がんばっている自分へ。
アップルパイの味と香りは、
言葉にならない気持ちをそっと運び、
記憶に残るものだと思っています。
だから私たちは、
ここまでこだわってお届けしています。
■ 最後に
私たちは、つくることが何より好きな職人です。
良いものをつくること
美味しいと感じていただけるものをつくること。
それが使命です。
けれど、技術を磨くためだけに
この仕事をしているわけではありません。
箱を開けた瞬間、
一口味わった瞬間。
心の温度が、ほんの少し上がる。
そんな時間のお手伝いができたなら、
これ以上の喜びはありません。
もしこのアップルパイを食べて
「あの人にも食べてもらいたいな」と
思っていただけたなら――
どうか、その気持ちを大切にしてください。
このパイが、
あなたの想いを運ぶ存在になれますように。
それが、私たちの願いです。